警察官は、日々変化する社会の中で公共の安全と秩序を守るため、法律に基づいて幅広い活動を行う責任ある公務員です。犯罪の防止から交通の安全確保まで、彼らの役割は極めて重要であり、その業務は社会の基盤を支える不可欠なものです。
全国の警察官のうち、9割以上が都道府県警察で働く地方公務員です。
地方公務員として警察官になることは、多大な責任と共に大きな誇りを伴う仕事であると言えるでしょう。
以下で、地方公務員の警察官として働くための道のりや、警察官採用試験の内容、さらには警察官としてのキャリアパスについて詳しく解説していきます。
地方公務員の警察官を目指す方は、確認してみてください。
地方公務員の警察官の仕事内容と警察施設の種類
以下では、地方公務員の警察官の一般的な仕事内容と、地方公務員の警察官になるために、知っておきたい警察施設の種類について説明していきます。
地方公務員の警察官の仕事内容
地方公務員の警察官の主な仕事は、それぞれの都道府県の治安維持を任務としています。
具体的に、地方公務員の警察官の仕事内容は以下の通りです。
治安の維持 | 犯罪の防止、捜査、逮捕、交通の安全確保など、地域の治安維持と公共の安全確保を行います。 |
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事件・事故の対応 | 地域内で発生する犯罪や交通事故に対応し、これらの調査や解決を図ります。 |
公共安全活動 | 大規模イベントや災害時の安全確保、救助活動も担います。 |
地域との連携 | 地域と協力し、地域の安全を守るための活動を行います。 |
地方公務員の警察官である、都道府県警察は、一般的には総務部、生活安全部、交通部、刑事部などの部門等に分かれており、それぞれの専門分野で仕事を行います。
また、地域ごとに設置されている警察署に勤務する警察官が、日々の業務を担当し、地域住民の安全を守るためのパトロール、交通取締り、犯罪捜査などを行います。
警察官が勤務する警察施設の種類
警察庁、都道府県警察、警視庁など、警察官が勤務する警察施設の種類や違いを知っておきましょう。
警察庁 | 日本の国家レベルで警察の活動を統括する機関。 (内閣府の外局として位置づけ) |
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都道府県警察 | 47都道府県の警察のことを言います。(東京都の警視庁を含みます。) 都道府県警察には、警察本部の他に、警察署が置かれています。 |
警視庁 | 東京都の警察のことを言います。 (他の都道府県のように、東京都警察とは言いません。) |
県警 | 北海道警察、東京の警視庁、京都府警察、大阪府警察を除いた。都道府県警察のことを言います。 |
地方公務員の警察官になるためには、(警視庁を含む)都道府県警察の警察官採用試験を受けることとなります。
また、都道府県警察の施設には、警察本部、警察署、交番(駐在所)がありますが、地方公務員の警察官になった場合には、交番勤務からスタートします。
警察本部 | 47都道府県の警察のことを指します。 また、警視庁は本庁とも呼ばれます。 |
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警察署 | 一定地域内の警察に関する事務を扱う役所で、所轄署とも呼ばれます。 (警察本部も警察署の1つです。) |
交番(駐在所) | 警察署の下部機構として、町の要所に設けられた警官の詰め所を指します。 |
地方公務員の警察官になるには?
地方公務員の警察官になるためには、各都道府県が実施する警察官採用試験(地方公務員試験)を受けて合格する必要があります。(警視庁でも都道府県警察でも同じです。)
その後、警察学校(全寮制)で大学が最終学歴ならば6ヶ月間、それ以外の場合は10ヶ月間、入校し研修を受けます。
警察学校を卒業した後、はれて警察官として交番(駐在所)に配属され、経験年数や実績・実力に応じてキャリアアップしていきます。
以下では、試験区分、採用試験の日程、年齢制限・受験資格、試験の難易度、身辺調査等について詳しく説明していきます。
警察官採用試験の区分は学歴で分かれる
警察官試験の区分は、警視庁(東京都)であれば「Ⅰ類」や「Ⅲ類」、その他の都道府県警察であれば、「A」「B」などに区分され、各都道府県によって異なります。
一般的に、この警察官試験区分は、受験者の最終学歴で分かれており、以下の通りです。
Ⅰ類・A | ・大学を卒業した人(短大は除く・見込み含む) ・警察本部長が同等の資格があると認める人 |
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Ⅲ類・B | ・上記の「Ⅰ類・A」以外 ・短期大学(2年制)や高校卒業以上(大学は除く) |
また、柔道や剣道の有段者の場合やスポーツで全国規模の退会で優秀な成績を修めた場合、上記区分の他に「特別枠」が設けられている場合もあります。ただし、都道府県や採用年度によって異なります。
そのため、最終学歴が大学卒業か、それ以外かに分かれていると思っておきましょう。
特別枠とは?
公務員試験における特別枠とは、多様な人材の採用を目的に、通常の一般枠とは異なる採用区分のことです。
主に、社会人・民間企業経験者や、公務員経験者、UIJターン、スポーツ関連等が一般的な採用試験と比較して、受験しやすいように新設されている区分です。(自治体・団体によってはこのような区分が存在しない場合もあります。)
警察官採用試験の日程について
警察官採用試験は、毎年「5月頃」に第1回、「9月頃」に第2回が行われます。(こちらも各都道府県や年度によって異なるため注意してください。)
第1回 | ・1次試験:5月頃 ・受付期間:3月~4月上旬まで |
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Ⅲ類・B | ・1次試験:9月頃 ・受付期間:7月~8月中旬まで |
また、都道府県によっては、第3回、第4回と募集を続ける場合もあり、採用人数によって毎年異なります。
そのため、以下の公務inで採用試験情報は細かくチェックしておきましょう。
警察官採用試験の年齢制限・受験資格
警察官採用試験の年齢制限は一般的に、30歳未満である場合がほとんどです。稀に、第3回・第4回などの募集で、35歳未満で募集がかかる場合もあります。
(こちらも各都道府県や年度によって異なるため注意してください。)[/aside]
警察官以外の警察職の場合や、「再採用」といって、一度警察官を経験している採用でない限りは、35歳以上は受けることができる警察官採用試験は少ないと思っておきましょう。
(警察官ではなく、警察行政職や警察署に勤務する技術職などは、年齢制限が緩和されている場合も多いです。)
また、その他の受験資格としては「学歴」が主です。高校卒業以上の最終学歴であれば、年齢制限をクリアすることで試験を受けることができるでしょう。
警察官の身体要件は撤廃されている
警察官になるためには、受験資格として身長・体重などの身体要件をクリアする必要がありましたが、令和5年(2023年)の1月に警視庁職員任用規程の改正が行われています。
そのため、警察官採用試験における身体・体重要件が撤廃されました。
ただし、警察官採用試験においては、第2次試験において身体検査が行われます。
※身体検査は適否(適しているかそうでないか)を判断されますが、過去の要件を満たしておくと良いでしょう。詳しくは試験内容の部分で説明します。
警察官採用試験の難易度
一般的な警察官採用試験の難易度は、他の地方公務員試験と比較すると高くありません。
しかし、都道府県によっては競争倍率が高い場合も多く、教養試験(一般的知識・知能問題)の試験対策は必要です。
また、各都道府県警察の警察官採用試験によって異なりますが、一般的に人物試験(個別の面接試験)の配点が高くなっているため、一般の採用試験と同様に面接が重視されます。
警察官採用試験は、加点対象等の資格も多い
警察官採用試験の特徴として、資格等を保有していれば、試験に加点される対象も多いです。
例えば、柔道剣道の有段者や、語学系の資格、全国規模のスポーツ大会等での実績、最近では「情報処理技術者」に該当する資格などです。
そのため、各都道府県警察が実施する警察官採用試験の募集要項は必ずチェックしておきましょう。
警察官採用試験の身辺調査
警察官採用試験の1次試験、2次試験等の間に「身辺調査」が行われると言われています。
身辺調査では、応募者の背景や性格、適性などを詳細に調査し、警察官としての職務を遂行する上で、倫理的、法的な観点から適切な人物かどうかを判断するために行われます。
具体的には、採用担当者以外は身辺調査の正確な内容を知らないため、身辺調査における試験情報は公開されていません。(デマに惑わされないように注意してください。)
そのため、明確な合否基準は分からないという結論になります。対策等が行えないため、警察官採用試験を受けるしか方法がありません。
ただ、一般的には「個人的な背景」「犯罪歴の有無」「家族や友人との関係」「社会的な評判」「精神的、身体的な健康状態」などが身辺調査の項目に該当すると言われています。
警察学校への入校
警察学校は、警察官候補生や既に警察官として採用された人々を対象に、警察業務に必要な知識、技能、態度を教育・訓練する機関です。
警察官採用試験に合格した、地方公務員の警察官は、警察学校に以下の期間入校します。
大学卒業の区分 (Ⅰ類・A) |
6ヶ月間 |
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それ以外 | 10ヶ月間 |
警察学校は全寮制で、どんなに自宅が近くても通学は認められていません。
警察学校では、新人警察官が職務を遂行する上で必要な基礎的な訓練を提供するとともに、現職の警察官に対しても専門性を高めるための継続教育や「法律知識、実技訓練、体力強化、犯罪捜査、交通管理、公共の安全と秩序の維持、コミュニケーション能力」などの訓練プログラムが実施されます。
また、警察官が持つべき倫理観や責任感を養うことも重視しており、地域社会との関わりや多様な文化への理解を深めるための教育も行われます。
警察学校を卒業すると、交番に警察官として配属されます。
警察官採用試験の内容について
一般的な警察官採用試験の難易度は、他の地方公務員と比較すると高くありません。しかし、都道府県によっては競争倍率が高い場合も多く、試験対策は必要です。
1次試験・2次試験共に、試験種目ごとに合格最低基準が一般的に設けられており、1種目でも基準に達しない場合は不合格になります。
以下は、神奈川県警察の令和5年度(2023年度)の1次試験と2次試験内容です。(出典:令和5年度警察官採用試験/神奈川県警察)
教養試験の内容(1次試験)
試験の程度 | ・大学卒業程度又は、高校卒業程度の内容 (受験区分によって異なる) ・配点100点 |
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内容 | ・ 一般的知識(25問) ・知能問題(25問)の筆記試験(2時間) |
知識分野 | 法律、政治、経済、社会一般、日本史、世界史、地理、数学、物理、化学、生物、地学 |
知能分野 | 文章理解(英文を含む。)、判断推理(言語、非言語)、数的処理、資料解釈 |
神奈川県警察の場合、1次試験は教養試験のみで、五肢択一式(5つの選択肢の中から正解を選ぶ)で行われました。
教養試験の分野は幅広いため、警察官採用試験の対策は行っておきましょう。
また、警視庁(東京都)では、1次試験に、論文試験がありました。こちらの論文試験は神奈川県警察では2次試験に入っています。
論(作)文試験・適性検査の内容(2次試験)
論(作)文試験 | ・思考力、構成力等についての筆記試験 (大学卒は論文、それ以外は作文) ・1題必須解答:800字程度・1時間 ・配点100点 |
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適性検査 | 職務遂行上必要な素質及び適性についての検査 |
神奈川県警では、2次試験になっていますが、論(作)文試験と適性検査は1次試験日に実施されました。
論作文試験が配点100点に対して、適性検査は「適否(適しているかそうでないか)」を判定するものになります。
体格検査・体力検査の内容(2次試験)
体格検査、体力検査共に、職務遂行上必要な体格・体力の検査を行い、「適否」を判定するものになります。
体格検査
検査項目 | 合格基準 |
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視力 | 両眼とも裸眼視力が0.6以上又は 、矯正視力が1.0以上であること。 |
色覚 | 職務遂行に支障がないこと。 |
関節及び五指の運動 | 職務遂行に支障がないこと。 |
体格検査は、明確に「合格基準」が設けられているため、公務員採用試験の応募前にチェックしておきましょう。
また、矯正視力の人は眼鏡やコンタクトレンズは忘れないようにしましょう。忘れた場合は裸眼での検査になります。
体力検査
検査項目 | 実施回数(男性) | 実施回数(女性) |
---|---|---|
腕立て伏せ | 25回 | ー |
膝附腕立て伏せ | ー | 15回 |
上体起こし | 25回(2人1組による実施) | |
バーピーテスト | 20回 | |
握力 | 左右1回ずつ |
※バーピーテストとは、バーピージャンプのことで、立っている状態からしゃがみ込んで腕立て伏せの体勢になり、そのまま立ち上がる流れでジャンプをするトレーニング方法です。
また、上記の実施回数は、試験会場における実施回数のため、合格基準ではありません。
警察官採用試験を受ける場合は、日ごろから体力づくりを行っておきましょう。
人物試験と身体検査の内容(2次試験)
2次試験の中で、一番大切なのは人物試験(面接試験)です。配点が一番高く200点です。
人物試験では1人約20分間、人柄、性向等についての個別面接試験を受けます。
また、身体検査に関しては、「適否」を判定され、主として胸部疾患、性病等の伝染性疾患、痔疾、眼疾、耳鼻咽喉、聴力、血圧、尿及び肝機能等についての医師による検査を受けます。
過去の警察官採用試験における身体要件について
前述したように、警察官採用試験における、受験資格である身体要件は2023年1月に撤廃されました。過去の身体要件は以下の通りです。
身長 | 男性:概ね160cm以上 女性:概ね154cm以上 |
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体重 | 男性:概ね48kg以上 女性:概ね45kg以上 |
また、視力、色覚、聴力、疾患の有無などは今まで通りです。
地方公務員の警察官の昇進・階級と国家公務員(キャリア)との違い
以下では、一般的な地方公務員の警察官(ノンキャリア)の昇進・階級と、国家公務員(キャリア)の警察官との違いを説明してきます。
地方公務員の警察官の昇進・階級について
警察官採用試験に合格し、地方公務員の警察官になった場合、階級は「巡査」からスタートします。
警察官のキャリアは以下画像のように、「警視総監」や「警察庁長官」まで続いていますが、「警部補」で退職する警察官がほとんどです。
また、地方公務員の警察官でも、「警視」の階級になった場合には、国家公務員となります。
地方公務員の警察官の昇進と年齢
地方公務員の警察官の場合、警察官昇任試験を受けることで、役職が上がりますが、受験資格の勤務年数が決められています。
巡査部長 | <必要勤務年数> 大卒:2年以上、短大卒:4年以上、高卒:5年以上 |
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警部補 | <必要勤務年数> 大卒:2年以上、短大卒:3年以上、高卒:4年以上 |
警部 | <必要勤務年数> 大卒:4年以上、短大卒:4年以上、高卒:4年以上 |
※出典:長野県警察 採用サイト(勤務制度に関するよくある質問)
地方公務員の警察官は、30代のうちに警部補まで昇格できる方も多いです。
しかし、ほとんどの地方公務員の警察官の出世は、警部補か巡査部長までで退官します。
そのため、地方公務員の警察官が出世を目指すのであれば、「警部」がほぼ頂点となり、警部はいわゆる逮捕状の請求などもできる幹部警察官です。
地方公務員の警察官のキャリアモデル
(例)警察官(大卒・男性)36歳 13年目のキャリア
23歳 | 階級:巡査 勤務:警察署 地域課 交番所員 |
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26歳 | 階級:巡査長 勤務:警察署 直轄警ら隊 隊員 |
28歳 | 階級:巡査部長 勤務:警察署 地域課 交番主任 |
33歳 | 階級:警部補 勤務:警察本部 警務課 係長 |
また、一般的に地方公務員の警察官が「警視」に昇進するには40歳前後、「警視正」に昇進する年齢は50歳前後と言われており、選考を通らなければならないため、出世することは難関です。(地方公務員の警察官で「警視」に昇進する方は、ほとんどいません。)
国家公務員の警察官(キャリア)と地方公務員(ノンキャリア)の違い
国家公務員の警察官は、「大卒程度の国家総合職試験」「大卒程度の国家一般職試験」に合格することで(国家公務員の)警察官になることができます。
よく呼ばれる、警察官のキャリアやノンキャリアは以下のような分類になります。
キャリア | ・試験:国家総合職試験に合格した警察官 ・身分:国家公務員 ・階級:警部補スタート |
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準キャリア | ・試験:国家一般職試験に合格した警察官 ・身分:国家公務員 ・階級:巡査部長スタート |
ノンキャリア | ・試験:都道府県警察の警察官採用試験に合格した警察官 ・身分:地方公務員 ・階級:巡査スタート |
国家公務員の警察官がキャリアと呼ばれる理由は、キャリアは「警部補」、準キャリアは「巡査部長」から階級がスタートするためです。
さらに、キャリアの場合は、研修も含めて警部補で約1ヶ月勤務した後、再び警察大学で1ヶ月の研修を受け、警部へと昇進します。
このように、地方公務員の警察官の多くは警部補で定年退職をするのに対し、キャリアの場合は入職後すぐに警部補として勤務するため、警察官としての昇進に大きな差があります。
警察官として出世したい、昇進したい方は、大卒程度の国家総合職試験を受けた方が良いでしょう。
また、地域住民の治安維持等の仕事を警察官として行いたい場合は、地方公務員の警察官を選択し、現場で勤務すると良いでしょう。
まとめ
こちらでは、地方公務員の警察官になるために、知ってほしい知識をまとめました。
地方公務員の警察官になるには、各都道府県警察が実施する警察官採用試験を受験し、合格する必要があります。
採用試験の過程には、一般的に筆記試験、身体能力試験、面接試験、そして健康診断・体格検査等が含まれており、適性検査も行われます。合格者は、その後6ヶ月~10ヶ月間、警察学校での基礎教育訓練を受けることになります。
また、上記で説明した試験日以外にも、警察官の募集や警察職の募集は、年間を通じて随時行われている場合があります。
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